京都地方裁判所 昭和59年(わ)267号 判決 1984年9月11日
1
本籍 韓国慶尚北道義城郡點谷面西辺洞九九番地の二
住居
京都市伏見区竹田久保町一五番地の一二三
会社役員
松原正憲こと
孫正憲
昭和一四年五月一二日生
2
本店の所在地 京都市伏見区竹田中川原町七七番地三
法人の名称
有限会社南都物産
代表者の住居
京都市伏見区竹田久保町一五番地の一二三
代表者の氏名
松原正憲こと 孫正憲
3
本店の所在地 京都府宇治市小倉町神楽田五五番地一
法人の名称
株式会社松原興産
代表者の住居
京都市伏見区竹田久保町一五番地の一二三
代表者の氏名
松原正憲こと 孫正憲
右被告人に対する所得税法違反、法人税法違反、被告有限会社南都物産及び同株式会社松原興産に対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は検察官井越登茂子、弁護人豊島時夫(主任)、前堀克彦各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
1 被告人孫正憲を懲役二年六月及び罰金一億二〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
2 被告有限会社南都物産を罰金一六〇〇万円に処する。
3 被告株式会社松原興産を罰金五〇〇万円に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人孫正憲は、パチンコ店を営むとともに被告会社有限会社南都物産及び同株式会社松原興産の代表取締役として各被告会社の業務全般を統括掌理しているもの、被告会社有限会社南都物産は、京都市伏見区竹田中川原町七七番地三に本店を置き、パチンコ店を営むもの、被告会社株式会社松原興産は、京都府宇治市小倉町神楽田五五番地一に本店を置きボーリング場などを営んでいるものであるが
第一被告人孫正憲は、所得税を免れようと企て
一 昭和五五年分の総所得金額が九、九五八万六、五一九円(別紙一修正貸借対照表、修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が五、九〇八万六、一〇〇円であるのにもかかわらず、収支に関する記帳を行わず、右パチンコ店営業の一部を父孫鎮宅の営業に仮装し、かつ、同営業により得た所得を仮名で預金とするほか不動産の取得資金に充てるなどの行為により、その所得金額のうち九、三六五万二、五一九円を秘匿したうえ、同五六年三月一四日、京都市伏見区鑓屋町所在の所轄伏見税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が五九三万四、〇〇〇円で、これに対する所得税額が六七万六、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額五、九〇八万六、一〇〇円との差額五、八三六万三、〇〇〇円を免れ
二 同五六年分の所得金額が分離課税の短期譲渡所得金額六、一八二万五、三九三円を含め一億九、四六〇万一、一七七円(別紙二修正貸借対照表、修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が一億三、四五三万七、〇〇〇円であるにもかかわらず、収支に関する記帳を行わず、同営業の一部を父孫鎮宅及び妻金慶美の営業に仮装し、かつ、同営業により得た所得を仮名で預金とするほか不動産の取得資金に充てるなどの行為により、その所得金額のうち一億八、〇六二万二、二四一円を秘匿したうえ、同五七年三月一五日、同税務署において、同税務署長に対し、所得金額が分離課税の短期譲渡所得金額四三八万三、九九九円を含め一、三九七万八、九三六円で、これに対する所得税額が三五八万五、四〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億三、四五三万七、〇〇〇円との差額一億二、八九八万一、一〇〇円を免れ
三 同五七年分の総所得金額が四億九三三万四、二〇六円(別紙三修正貸借対照表、修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額が二億九、一一七万六、五〇〇円であるにもかかわらず、右同様の行為により、その所得金額のうち三億九、三九五万五、一九二円を秘匿したうえ、同五八年三月一五日、同税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一、五三七万九、〇一四円でこれに対する所得税額が四一四万三、一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二億九、一一七万六、五〇〇円との差額二億七、六二三万七、七〇〇円を免れ
第二 被告人孫正憲は、被告会社有限会社南都物産の業務に関し、法人税を免れようと企て
一 同五六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における所得金額が二、八八三万一、七八九円(別紙四修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が一、一〇八万六、七〇〇円であるにもかかわらず、公表経理上売上収入の一部を除外して得た資金を自己の個人資金と混合して仮名定期預金にし、かつ、不動産の取得資金に充てるなどの行為により、その所得金額のうち二、三七七万三、四五五円を秘匿したうえ、同五七年三月一日、同市伏見区鑓屋町所在の所轄伏見税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五〇五万八、三三四円で、これに対する法人税額が一四五万五、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額一、一〇八万六、七〇〇円との差額九六三万一、六〇〇円を免れ
二 同五七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における所得金額が一億九八四万六、二二〇円(別紙五修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が四、五一三万二、二〇〇円であるにもかかわらず、右同様の行為により、その所得金額のうち一億五七万四、二一三円を秘匿したうえ、同五八年二月二八日、同税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九二七万二、〇〇七円で、これに対する法人税額が二八九万一、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額四、五一三万二、二〇〇円との差額四、二二四万一、〇〇〇円を免れ
第三 被告人孫正憲は、被告会社株式会社松原興産の業務に関し、法人税を免れようと企て
一 同五五年一〇月一日から同五六年九月三〇日までの事業年度における所得金額が四、一六二万五、〇〇〇円(別紙六修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が一、六五二万二、五〇〇円であるにもかかわらず、公表経理上売上の一部を除外して得た資金を自己の個人資金と混合して仮名定期預金にし、かつ、不動産の取得資金に充てるなどの行為により、その所得金額の全額を秘匿したうえ、同五六年一一月三〇日、京都府宇治市大久保町井の尻六〇番地の三所在の所轄宇治税務署において、同税務署長に対し、所得がなく、納付すべき法人税額もない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額一、六五二万二、五〇〇円全額を免れ
二 同五六年一〇月一日から同五七年九月三〇日までの事業年度における所得金額が一、七八五万三、八二九円(別紙七修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が六一五万一、三〇〇円であるにもかかわらず、右同様の行為により、その所得金額の全額を秘匿したうえ、同五七年一一月二五日、同税務署において、同税務署長に対し、所得がなく、納付すべき法人税額もない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右事業年度の正規の法人税額六一五万一、三〇〇円全額を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の大蔵事務官(検第二一〇号)及び検察官(三通。検第二三四、二三七、二四一号)に対する各供述調書
一 金慶美(検第一八一号)、松島吉城(検第一八七号)の検察官に対する各供述調書
判示第一、第二の各事実につき
一 被告人の大蔵事務官に対する各供述調書(三通。検第二二四、二二五、二三三号)
一 金慶美の大蔵事務官に対する各供述調書(二通。検第一七九、一八〇号)
判示第一、第三の各事実につき
一 被告人の大蔵事務官(検第二三二号)及び検察官(二通。検第二三九、二四二号)に対する各供述調書
一 松島吉城(二通。検第一八二、一八三号)、金秀明(二通。検第一九三、一九五号)の大蔵事務官に対する各供述調書
判示第一の各事実につき
一 被告人の大蔵事務官(一九通。検第二一一ないし二二三、二二六ないし二三一号)及び検察官(四通。検第二三五、二三六、二三八、二四〇号)に対する各供述調書
一 金慶美(検第一七八号)、橋本義昭(三通。検第一八四、一八八、一八九号)、北畑多稔夫(検第一九〇号)、福西勇夫(検第一九一号)、李興斉(検第一九二号)、金秀明(検第一九六号)、小野勝(二通。検第一九七、一九八号)、梅本光生(二通。検第一九九、二〇四号)、依田二三夫(検第二〇〇号)、孫鎮宅(二通。謄本、検第二〇一、二〇二号)、渡辺徳一(検第二〇三号)の大蔵事務官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(四八通。検第二四ないし三六、三八ないし四〇、四二ないし四九、五一、五三、五四、五八、六〇ないし六三、六五ないし六七、六九、七一、七四、七六ないし八二、八七ないし八九号)
一 大蔵事務官作成の「証明書」と題する書面(検第一一号)
判示第一の一の事実につき
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(二通。検第五五、五六号)
一 大蔵事務官作成の「所得税確定申告書謄本」と題する書面(検第八号)
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(検第一号)
判示第一の二、三の各事実につき
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(七通。検第三七、四一、五〇、五二、五九、六八、七〇号)
判示第一の二の事実につき
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(五通。検第五七、六四、七三、八四、九〇号)
一 大蔵事務官作成の「所得税確定申告書謄本」と題する書面(検第九号)
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(検第二号)
判示第一の三の事実につき
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(五通。検第七二、七五、八三、八五、八六号)
一 大蔵事務官作成の「所得税確定申告書謄本」と題する書面(検第一〇号)
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(検第三号)
判示第二の各事実につき
一 西貞三の大蔵事務官(三通。検第二〇五ないし二〇七号)及び検察官(検第二〇八号)に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(一四通。検第一三九ないし一五二号)
一 登記官作成の法人登記薄謄本(検第二〇号)
判示第二の一の事実につき
一 大蔵事務官作成の「法人税確定申告書謄本」と題する書面(検第一二号)
一 大蔵事務官作成の「証明書」と題する書面(検第一四号)
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(検第四号)
判示第二の二の事実につき
一 大蔵事務官作成の「法人税確定申告書謄本」と題する書面(検第一三号)
一 大蔵事務官作成の「証明書」と題する書面(検第一五号)
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(検第五号)
判示第三の各事実につき
一 松島吉城(二通。検第一八五、一八六号)、金慶美(検第一九四号)の大蔵事務官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書(六通。検第一六九ないし一七四号)
一 登記官作成の法人登記薄謄本(検第二二号)
判示第三の一の事実につき
一 大蔵事務官作成の「法人税確定申告書謄本」と題する書面(検第一六号)
一 大蔵事務官作成の「証明書」と題する書面(検第一八号)
一 大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(検第六号)
判示第三の二の事実につき
一 大蔵事務官作成の「法人税確定申告書謄本」と題する書面(検第一七号)
一 大蔵事務官作成の「証明書」と題する書面(検第一九号)
一 大蔵事務官作成「脱税額計算書」と題する書面(検第七号)
(法令の適用)
被告人孫正憲の判示第一の一の所為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一項に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、判示第一の二、三の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に、判示第二の一、二及び第三の一、二の各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に、被告有限会社南都物産の判示第二の一、二及び被告株式会社松原興産の判示第三の一、二の各所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項にそれぞれ該当するところ、被告人孫正憲の判示第一の一ないし三の各罪につき各所定刑中いずれも懲役刑と罰金刑を併科し、判示第二の一、二及び第三の一、二の各罪につき各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、なお情状により被告人孫正憲の判示第一の一ないし三の各罪につき所得税法二三八条二項を、被告有限会社南都物産の判示第二の一、二の各罪につき法人税法一五九条二項をそれぞれ適用し、被告人孫正憲の判示第一の一ないし三、判示第二の一、二及び判示第三の一、二、被告有限会社南都物産の判示第二の一、二、被告株式会社松原興産の判示第三の一、二の各所為は、それぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人孫正憲に対し、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第一の三の罪の刑に法定の加重をし、被告人孫正憲並びに被告有限会社南都物産、同株式会社松原興産の罰金刑については、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を各合算し、被告人孫正憲に対し、前記加重した刑期及び合算した金額の範囲内で懲役二年六月及び罰金一億二〇〇〇万円に、被告有限会社南都物産に対し、前記合算した金額の範囲内で罰金一六〇〇万円に、被告株式会社松原興産に対し、同合算した金額の範囲内で罰金五〇〇万円にそれぞれ処し、被告人孫正憲の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、被告人に対し、情状により同法二五条一項一号を適用してこの裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の事由)
本件犯行は、その脱税額において巨額なうえ、逋脱率も極めて高いもので、単に財政運営を危殆ならしめるにとどまらず、担税力に応じて公平に納税義務を負うとする租税均衡負担の意識、殊に誠実な申告納税者に対する納税意欲を損わしめると共に源泉徴収を行われる給与所得者の申告納税に対する不信感、不公平感を一層助長せしめ、延いては税制一般の否定から国家の存立を揺がせるに至らしめるものであって、その反社会性は顕著であり、犯情極めて悪質と言うべきで、近時の社会意識からしても実刑をもって処すべきを相当と思料されるところである。
しかしながら、被告人は、当公判廷において、一隻の弁解も発せず、反省の情を被瀝し、改悛の態度において真摯なこと、過少申告の際、適切な助言も受けぬまま在日本朝鮮人京都府商工会を通じて所轄税務署長に申告がなされ、査察を受けた当初において中企連なる団体に相談し、隠滅の策動を一旦は試みたものの、弁護士、税理士らによる的確適正な進言を素直に受け入れ、爾後悔悟の念の下で査察に応じていること、修正申告をし、本税及び連動する諸税を完納していること、本件犯行の動機は奢侈に及ぶためのものでなく、大手業者に対抗する企業基盤の強化にあったものであること、今後は税理士の指導の下に経理事務を改善することを約しており再犯の虞のないこと、従前格別の前科前歴もないことなど酌むべき事情も存する。
以上の各情状のほか、その他諸般の事由を勘案し、前記のとおり刑の量定をなし、なお今回に限り被告人に対し、懲役刑の執行を猶予することを相当とした次第である。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 伊藤正高)
別紙(一)
修正貸借対照表
事業所得
昭和55年12月31日現在
<省略>
別紙(一)
修正損益計算書
雑所得、利子所得
自 昭和55年1月1日
至 昭和55年12月31日
<省略>
別紙(二)
修正貸借対照表
事業所得
昭和56年12月31日現在
<省略>
別紙(二)
修正損益計算書
雑所得、利子所得
分離短期譲渡所得
自 昭和56年1月1日
至 昭和56年12月31日
<省略>
別紙(三)
修正貸借対照表
事業所得
昭和57年12月31日現在
<省略>
別紙(三)
修正損益計算書
雑所得、利子所得
不動産所得
自 昭和57年1月1日
至 昭和57年12月31日
<省略>
別紙(四)
修正損益計算書
有限会社南都物産
自 昭和56年1月1日
至 昭和56年12月31日
<省略>
別紙(五)
修正損益計算書
有限会社南都物産
自 昭和57年1月1日
至 昭和57年12月31日
<省略>
別紙(六)
修正損益計算書
株式会社松原興産
自 昭和55年10月1日
至 昭和56年9月30日
<省略>
別紙(七)
修正損益計算書
株式会社松原興産
自 昭和56年10月1日
至 昭和57年9月30日
<省略>